断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

どこの家にも怖いものはいる

 見れば見るほど不気味な、夢に出そうな表紙である。ホラーやミステリ、あるいはその融合ともいえる作品を発表し続ける三津田信三氏の長編ホラー小説。

怪談好きな作家と編集者が集めたいくつかの住居にまつわる怪談、それぞれ場所も時代も異なるはずなのに、言葉にしがたい共通した要素を二人は感じる。二人はそれぞれの怪談の背景について調査し始めるのだが…

実はミステリ要素をうまくいれるという評判をあちこちで聞いていて、かえって避けていた作家なのだけど、読んでみたらこれが面白い。

「三つ目の話 幽霊物件」が特に好きだ。アパート暮らしの大学生が屋根や隣室からの不可解な音に悩まされることが契機となり怪異に見舞われる話。辻褄の合わない場所へ迷い込んでしまったあたりの張り詰めた、冷や汗のでる雰囲気。

作中の作家=著者という語り方で、著者の他作品への言及を織り交ぜながら調査していくので、荒唐無稽な出来事に現実味を帯びさせる仕掛けになっている。それをうけることで、この小説を読んだ人のところにも「出る」というメタな注意書きにも迫力が生まれるわけだ。

不気味な空間の描写がうまい。小物などの配置とその語る順番なども非常に計算されている。

大筋に付随している小品的な怪談がまた面白い。1つ一行程度の怪談が羅列されるくだりもあり、読み手を追い打ちしてくる(寝ていると気配がするので怖くて目を閉じていると、「開けて遣ろうか」と耳元で言われる、など)

細部にまで拘りが感じられる、小野不由美残穢」とならんで家でじっくりと楽しめる怪談本だった。