断片置き場

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夜のリフレーン

 

夜のリフレーン

夜のリフレーン

 

幅広いジャンルを自在に描く皆川博子の数ある短編の中で、今まで単行本に未収録だったものの中から日下三蔵氏が編んだ、美しい宝石棚のような短編集。

終わらない悪夢にとらわれた、若くて短慮な男「夜、囚われて……」、自身の精神の落ち込みを救った笛の奏者にかける妄執ともいえる想い「笛塚」、いわくつきのひな人形の真相「七谷屋形」、近代的な価値観の押し付けが引き起こす不協和音「紅い鞋」…。

追想される過去の出来事たち、語り手たちの中でいつまでも繰り返されるリフレーン。

特に気にったのは「新吉、おまえの」。良家の娘が幼いころのこと、冷たい親よりも温かく接してくれた奉公人とでかけた祭りの夜。水あめ、下駄、神社の御手洗、そして起こる凶事。因果関係の不透明さ、幼さのある語らいの理由、愛情の迂遠な語り方というべき「おまえの…になりたいよ」、斬新なようで狂いなく仕掛けられた比喩もあり、ただひたすらに美しい一編だと感じた。

心の中に部屋がある。人を捕らえて離さない、心地よさと、苦痛や後悔がひしめく部屋が。そこから抜け出したとしても、はずみでその部屋の在処を思い出すときがくるのかもしれない、これらの物語のように。そう思うと空恐ろしい気分になった。私の中のリフレーンにどうか、私が気づきませんように。