断片置き場

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ピクニック・アット・ハンギングロック

 

ピクニック・アット・ハンギングロック (創元推理文庫)

ピクニック・アット・ハンギングロック (創元推理文庫)

 

 オーストラリアの奥地で上流階級の少女たちを教育する学院を舞台におこる、不可解な失踪事件を描く。原作は1967年発表とのことだが長い間翻訳がなく、ようやく昨年末に翻訳がなされたとのこと。

冒頭のピクニックのシーンに始まり、学院や庭園での散策の場面など美しい自然描写がちりばめられている。特にピクニックのシーンはその中を美しい少女たちが歩いていくということもあって、際立った美しさであり、少女らを目撃した好青年マイケルの心が奪われたのも無理はないと思うほどだ。甲虫や蟻と少女たちー美醜の対比なども用いながら世界観を濃密にしている。

全体の構成としては、幻想性の高い冒頭から現実的な問題に行き詰まる終盤へという流れがあるように感じる。

事件により多数の生徒が退学を決め、追い詰められていく校長こそはこの終盤を担う象徴的な人物であることは間違いない。現実的な問題への対応を尽くしたが、ハンギングロックで起こった事件はまったく致命的であったために無力であり正気を失っていった。

校長だけでなく多くの関係者の未来に影響を与えていく事件が結局のところブラックボックス化していくあたりがまさに絶妙。

ああもうこの場所は終わりなのだ、という行き詰まりには悲壮感が漂う。だが一方で濃密な美的世界が崩壊していく様は美しくも思える。ぞくぞくとしながら読みふけった1冊。