断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

怪奇疾走

20世紀の幽霊たち』、『怪奇日和』に次ぐジョー・ヒル3つ目の短編集。

 

前2巻に勝るとも劣らない、バリエーションにあふれた収録作に大満足。

イギリスの鉄道で隣に座ったのはなんと狼男だった「ウルヴァ―トン駅」、子供たちが湖で見つけた巨大な怪物の死体「シャンプレーン湖の銀色の水辺で」、旅行先で入った不気味なサーカスはゾンビ(きっとフェイク)が主役「死者のサーカスよりツイッターにて実況中」など王道のホラーから社会風刺色の強いものまで多種多彩。

お気に入りは「フォーン」それから「親指の指紋」。

「フォーン」動物を猟銃で撃つ、その快感を満たすことばかり考えている愚かな親子たちが紹介されたのは1年に1回だけ開かかれる秘密の狩場、なんとそこには御伽噺の妖精たちが住んでいて…。

冒頭で年老いたライオンを娯楽のために殺した時点で、彼らの運命は完全に定まり、勿論報いを受けることとなる。なんの同情の余地もない彼らの結末と超然した妖精たちの佇まいが対照的。妙な爽やかさが残る。

「親指の指紋」はアブグレイブの捕虜虐待の加害者をヒロインとした風刺色の強い作品、「こめられた銃弾」(『怪奇日和』収録)のようなアメリカ社会の闇を描いている。異常な状況で育まれた狂気、日常に戻っても晴れぬ心。自由を奪われ、闇に全てが押しつぶされるかなりのインパクトのあるラスト。

切れ味の良い作品が目立つが、「遅れた返却者」のように優しさを強く感じる作品もある。家族愛がこの作家の核の一つなのだろう。一話読むごとに次はどんなものを読ませてくれるのかと楽しみが広がっていく。そうした気持ちを出会ってからずっと持ち続けていられる稀有な作家だ、これからも読み続けていきたい。