スペインの作家、フリオ・リャマサーレス著の小説。
物語は、廃村に唯一残った最後の男が、在りし日の村の回想に耽ったり、幻覚に襲われたりしながら衰弱していき死に至る、その過程を描くもので、これだけでは退屈に聞こえるかもしれない。
冒頭、隣村の男たちが最期の住人である私の死体を見つけにやってくる様子を、亡骸となった私の視点から、「~するだろう」と予測するような形で描いているのに驚いた。一見奇妙な語り口だが、この物語がすべて終わってしまったことを描くのに費やされている、ということを示す上で秀逸なやり方だと感じる。
何もかもが失われていく村の中にいる、正気と狂気の間に挟まれた男が見る世界は残酷でありながら、どこまでも美しい。キイチゴ、サンザシ、クレソン…様々な植物が村中を覆い始めている。無味な喪失ではない、草木が色づけながらの荒廃がある。自然へと呑み込まれていく過程ということなのか。
そしてタイトルの「黄色い雨」とは。それはリンゴの腐敗に例えられ、時の流れによる浸食と忘却がすべてを損なっていく様子を、おぞましくも美しい形で現している。村全体が黄色く染まる光景に目がくらむ。
ラストもまた冒頭を引き継いで、語り手が隣村の者たちが私を発見したあとのことを推量する形で描いており印象深い、特に最後の一文は。
想像を絶するほどの孤独で静謐な生活に没頭してしまった。素晴らしい小説だった。