断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

YourChronicle

ここ2年くらいYourChronicleというゲームにはまっている。いや、はまったり離れたりを繰り返している。

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言ってしまえば作業ゲーで、作業の能率を果てしなく上げ続けるゲームと言っていいが、特筆すべきは(DLCのアートワークを除いて)グラフィック的なものもボイスはもちろんBGMもない、テキストによってのみ世界は記述され続ける点だ。禁欲的といってもいいが、作業し続けるためのに余計なものを廃したようにも思える。

ただし意外にストーリーはしっかりしていて、人間と魔族との対立により不穏な世界を、かつての魔王討伐メンバーの息子の主人公が旅しながら力をつけて魔王に挑むという王道のベースがあり。しかもその裏に潜む陰謀、特徴的なわき役たちなどもあって一筋縄ではいかないあたりも面白い。(さらには今後世界の根幹の「神」にも迫っていきそうに見える)

やれることも(出力されるのはテキストだけであるが)多彩だ。ダンジョンを攻略する、木を切ったり、魚を取ったり、掃除をしたり、食材を集めて料理をしたり。

ゲームをすすめるごとに新しい要素が解禁され、主人公を強化する要素も多岐にわたっていく。ランク(普通のゲームならレベル)上げ→リセットを繰り返してのひらめきというポイント稼ぎ、食べ物によるステータスアップシステムの「暴食」、装備品の作成、ゲーム全体をインフレさせてしまう脅威のシステム「嫉妬」(例えば肉を買うイベントで、100Gで1個手に入れていた肉が値段そのまま数十個手に入ったりする)…各段階ごとに効果的な作業は異なり工夫の余地も多分にある。

放置ゲームのカテゴリに入っていたりするが実際は結構忙しい。熱心に作業の準備をしてようやく放置してもすぐに収穫物が所持量の限界に到達してしまい、それらを消費する作業の準備…といったことになりやすい。

現段階でもかなりよくできているこのゲームではあるが、私はつい先日(何度目かの)休止することにした。成長が青天井なうえ、作業の成果が目に見えて上がっていくこのゲームは私の性質とも合っていてとても楽しいだが、忙しすぎる。さすがに他の事ができなくなってしまってまずいなと。まだまだアプデもされそうだし、次に何かコンテンツの追加があったときに再開でいいかと考えた。アプデが入れば追加のシステムが作業の効率を大きく引き上げてくれるはずだし。

途方もないインフレをするゲームもSteamを覗けば数多くあるが、ストーリーがしっかりとあるものは本当に稀だ。これからも折を見て楽しんでいきたい。

不夜島

 

参加予定だった読書会の課題図書。この著者の作品は2冊目。

アメリカに負けて統治下にある沖縄という状況は史実とおおむね一緒だが、サイボーグ技術やプログラミング技術が高度に発達しているという嘘が世界を大きく塗り替えている。不安定だが活気のある空間で密貿易で暗躍する武(ウー)は謎の品物を入手するべく奔走することになる…

以下ネタバレあります

義体・電脳といったサイバーパンク要素が発達しているが、基本的な生活のレベルは現実の戦後レベルと変わらないアンバランスさ(移動手段として馬が用いられたりする)、のどかさと猥雑な活気が目まぐるしく入れ替わる構成で読むだけで楽しい。沖縄あるいは台湾の地域固有の風物は雰囲気をよく作っているだけでなく、魂・思い出・ルーツ・居場所といった作品で繰り返し論じられるテーマに関わっている(クライマックス間際のクバ餅のくだりが特にいいと思った)。

なかなかにダークな部分もある。話が進むごとに殺伐さが増していき緊迫した状況となっていく。誰もかれも殺すことに躊躇がなくなっていったし、非人道的な実験も次々と明らかになっていった(電脳化した人間を用いた装置とかはえぐいけど、正直かなり興味がそそられた)。が、終盤はさらに突き抜けて戦争というに相応しい規模となり、そこには妙な爽快感があった。武の心境の変化も影響していそうだが。

ナウシカ・タウンズという人物がやたら印象的ではあった。まずデカくて、いちいちかがまないと拠点を移動できないのもちょっと可愛らしい。個性を捨てシステムへ身を投じたかなり異常な存在でありながら、包容力のある母というふるまいをする不気味さ。

武たちが個の自由な意志で集まって彼女を一時的に打ち倒すことに成功するが、大局的には勝負にすらなっていないと感じる。一貫した思想があり未来のヴィジョンがあるナウシカに対して、”誰か”が志を継いで抗うことを願うしかない武たちでは勝負にならないだろうと感じた。

アメリカは世界の警察であろうとしたけど現実それは難しい、だから世界の故郷、お母さんになろうという発想は相当面白かった。

 

読んでいる間に色んな作品が想起された。様々な作品や文化のエッセンスを感じる。それでいてここまでオリジナリティがあるのは本当にすごい。

以下はそういう雑感

・カジノでのアナログなゲームにマルドゥックスクランブルがすぐに浮かんだ。

・台湾といえばホラーノベルゲーム『返校』で学生運動への弾圧が描かれていて理解に役立った気がする。あとこないだ『鍋に弾丸を受けながら』で台湾の食べ物について全体的な雰囲気を知ることができたのもよかった。

・電脳・データ化した記憶・意識の改ざんというテーマはあまりにも多くの作品が浮かんでは消えしたのであえて挙げなくてもいいか。

そんなところで。充実した読書の時間だったー。

薔薇船

もう余計なことを書かないで、唐突に書き始めることにした。

 

直木賞作家であり、ホラーの名手の小池真理子によるホラー短篇集。基本的には心霊だが、一部異なるものもあり。

まず「鬼灯」がなによりもよかった。母よりも父の妾になついていた娘の「私」が、後になってその妾の墓参に訪れる、というあらすじ。当然入り組んだ人間模様が描かれる。妾の奉公人が一人暮らすその家はもはや廃墟といった有様だが、在りし日の出来事が想起されていくうちに、私は確かに死んだその妾の気配を感じ取っていく。

怪奇現象はささやかなものだが印象的であり、形容一つ一つが美しい。薄暗い中を鬼灯の実がゆらめく姿を想う。

関係性だけ見れば昼ドラかなにかのように絡み合っているのだが、優しく配慮のできる人物が多いおかげか毒々しさもない。過去の出来事を少しずつ思い出していくうちに、幽かな気配とチャンネルがあっていき、自分が知らなかったある事実を確信するという筋も美しい。

 

意表を突かれたのは「首」。独特な思考を究めた兄は、この世で死んだものはあちら(あの世)に行って生まれなおし、あの世で死んだものはこの世にまた戻って生まれなおす、という循環し続ける世界のルールにたどり着いたのだ。そう妹に熱く語る。しかし間もなくして兄は事故で死亡してしまう。妹は兄の生まれなおしを期待する。すると妹にしか見えない形で兄の首だけが現れる。首は言葉を発したりせず妹の近くで現れたり消えたりする。妹は兄の復活を喜び、それにすっかり慣れていくが…

魂が直接的なループ移動をするという発想がユニークで面白い。

結局兄妹の再会は束の間のことで、思いがけない終わりを迎えてしまう。兄との2度目の別れももの悲しいが、妹が最終的に抱いた恐れが、永遠のループ構造の一員であるということ自体だということが奇妙な読み心地に繋がった。

 

全体的に見れば、不倫や愛妾などの濃密で陰のある人間関係の歪みが話の核になっている。湿り気が強くて、この梅雨の時期に読むのに向いていた。

山尾悠子

『小鳥たち』『山の人魚と虚ろの王』と山尾悠子を立て続けに読んだ。

高度な幻想文学について語る難しさをいままさに感じている。何度か山尾悠子について友人に語ろうとしたことがあったが一度としてうまくいったことがない。それは安易なメッセージ性やメタファーには思わせないという配慮が行き届いているがゆえのことである。夢のことを人に話して多少の顰蹙を買うことも通じているのかもしれない。個人的なしかも他者に語る気になるような夢は少なくとも何かのメッセージにに還元しがたい内容の筈だからだ。そう考えれば優れた幻想文学とは他者から聞かされる夢の話の退屈さを感じさせず、それでいて自分の夢のようだと思わせる(あるいは自分の夢だったらと願わせる)作品なのかもしれないという思いつきに至った。耽溺するに最高の小説。

とここまで書いて、いや私は人の夢の話を聞くのは嫌いではないんだけど、とか幻想文学にも明示的な比喩でありながら面白いものもあるとかそういう突っ込みが浮かんできたけどだいぶ夢見心地にあるので、まあいいかと投げる。

私の夢は常々退屈なものだらけで(過去とのことが若干の変奏を見せるか、遅刻などの現実的な不安がそのまま現れる)ただただげんなりさせられるが物語は現実からの逃避であると同時に私の夢たちからも逃避できている気がする。

ないはずの未来に今はいる

自分が青かったころは何もかもが嫌で、若いうちに漠然した終幕を迎えると、本気でそう考えていた(あながち無根拠ではなかったのだがそこについては割愛する)。

そのころの発想からしてみると現在の自分は、迎えるはずのなかった未来と言うべきところにいて、ある種のボーナスステージという段階にあると言ってもいい。まるでSF小説のような話だ。

この状態に行きついてからは大抵のことは恐ろしくないし、何事も楽しまなければ勿体ないなと考えるようになった。近頃は料理も楽しいし挑戦しようかなと考えることも増えた。前向きだ、伏せていた目線を少し上げるだけで見えるものが変わる。

 

この間読書会で青春物のミステリを読んでいて、もうこういった作品群の支持層ではないことを強く意識したのだけど、媒体変わって音楽ではまだまだいける感じがあり。青さと陰気さはほどよい長さであるならまだまだ呼応する部分があるみたい。

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どこかにいるかもしれない

作家との別れはいろいろなものがあって、自分が成長するにつれて(変わらない)作風が肌に合わなくなる場合や、逆に作風が大きく変わってついていけない場合もあるし、(自分にはあまり覚えがないが)作家の作品外での言動が気にくわないとかもあるかもしれない。だがもっと単純に、作品がぱたりとでなくなる、ということもある。

大体事情は知れる、端的にいって売れなかったのだろうと感じられるものが多い。ニッチな作風を好む読み手はその性質上こういうことにぶち当たりやすい。狭い範囲に刺さる内容を継続して書き続けても生きてはいけないことのほうが圧倒的に多い。

しかし、売れていても続きが出てこないこともある。これは分からない。作者が書くことに疲れたのかもしれないし、病気なのかもしれないし、分からない。SNSが普及して少しはそういうことが減ったけど、完全になくなることもない。読者が作者の何もかもを知りうるべきだとは全く思わない。

そうして心の中に、消息のしれない作家のリストが、無自覚なまま生成されていく。何かきっかけがあるとぽっと浮かんでくる、名前。関わっていた作品の名前を見たときはわかりやすいが、題材にしていた実際の事件や人物を経由してくることもある。そして検索する。大概は何も見つからない。たまに何かが見つかることもある。深堀りすると別名義で活動していたりするかもしれない。醜聞でない限り嬉しい。

案外、調べる前から知っていたゲームや映像などの作品に関わっていたりすることもある。灯台はいつだって暗い。

何か決定的な結末を迎えたのでなければ、どこか、どこかにいるかもしれない、と思えているうちは幸せなのかもしれない。そうやってまた検索をして夜が更けていく。

怪奇疾走

20世紀の幽霊たち』、『怪奇日和』に次ぐジョー・ヒル3つ目の短編集。

 

前2巻に勝るとも劣らない、バリエーションにあふれた収録作に大満足。

イギリスの鉄道で隣に座ったのはなんと狼男だった「ウルヴァ―トン駅」、子供たちが湖で見つけた巨大な怪物の死体「シャンプレーン湖の銀色の水辺で」、旅行先で入った不気味なサーカスはゾンビ(きっとフェイク)が主役「死者のサーカスよりツイッターにて実況中」など王道のホラーから社会風刺色の強いものまで多種多彩。

お気に入りは「フォーン」それから「親指の指紋」。

「フォーン」動物を猟銃で撃つ、その快感を満たすことばかり考えている愚かな親子たちが紹介されたのは1年に1回だけ開かかれる秘密の狩場、なんとそこには御伽噺の妖精たちが住んでいて…。

冒頭で年老いたライオンを娯楽のために殺した時点で、彼らの運命は完全に定まり、勿論報いを受けることとなる。なんの同情の余地もない彼らの結末と超然した妖精たちの佇まいが対照的。妙な爽やかさが残る。

「親指の指紋」はアブグレイブの捕虜虐待の加害者をヒロインとした風刺色の強い作品、「こめられた銃弾」(『怪奇日和』収録)のようなアメリカ社会の闇を描いている。異常な状況で育まれた狂気、日常に戻っても晴れぬ心。自由を奪われ、闇に全てが押しつぶされるかなりのインパクトのあるラスト。

切れ味の良い作品が目立つが、「遅れた返却者」のように優しさを強く感じる作品もある。家族愛がこの作家の核の一つなのだろう。一話読むごとに次はどんなものを読ませてくれるのかと楽しみが広がっていく。そうした気持ちを出会ってからずっと持ち続けていられる稀有な作家だ、これからも読み続けていきたい。