断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

不夜島

 

参加予定だった読書会の課題図書。この著者の作品は2冊目。

アメリカに負けて統治下にある沖縄という状況は史実とおおむね一緒だが、サイボーグ技術やプログラミング技術が高度に発達しているという嘘が世界を大きく塗り替えている。不安定だが活気のある空間で密貿易で暗躍する武(ウー)は謎の品物を入手するべく奔走することになる…

以下ネタバレあります

義体・電脳といったサイバーパンク要素が発達しているが、基本的な生活のレベルは現実の戦後レベルと変わらないアンバランスさ(移動手段として馬が用いられたりする)、のどかさと猥雑な活気が目まぐるしく入れ替わる構成で読むだけで楽しい。沖縄あるいは台湾の地域固有の風物は雰囲気をよく作っているだけでなく、魂・思い出・ルーツ・居場所といった作品で繰り返し論じられるテーマに関わっている(クライマックス間際のクバ餅のくだりが特にいいと思った)。

なかなかにダークな部分もある。話が進むごとに殺伐さが増していき緊迫した状況となっていく。誰もかれも殺すことに躊躇がなくなっていったし、非人道的な実験も次々と明らかになっていった(電脳化した人間を用いた装置とかはえぐいけど、正直かなり興味がそそられた)。が、終盤はさらに突き抜けて戦争というに相応しい規模となり、そこには妙な爽快感があった。武の心境の変化も影響していそうだが。

ナウシカ・タウンズという人物がやたら印象的ではあった。まずデカくて、いちいちかがまないと拠点を移動できないのもちょっと可愛らしい。個性を捨てシステムへ身を投じたかなり異常な存在でありながら、包容力のある母というふるまいをする不気味さ。

武たちが個の自由な意志で集まって彼女を一時的に打ち倒すことに成功するが、大局的には勝負にすらなっていないと感じる。一貫した思想があり未来のヴィジョンがあるナウシカに対して、”誰か”が志を継いで抗うことを願うしかない武たちでは勝負にならないだろうと感じた。

アメリカは世界の警察であろうとしたけど現実それは難しい、だから世界の故郷、お母さんになろうという発想は相当面白かった。

 

読んでいる間に色んな作品が想起された。様々な作品や文化のエッセンスを感じる。それでいてここまでオリジナリティがあるのは本当にすごい。

以下はそういう雑感

・カジノでのアナログなゲームにマルドゥックスクランブルがすぐに浮かんだ。

・台湾といえばホラーノベルゲーム『返校』で学生運動への弾圧が描かれていて理解に役立った気がする。あとこないだ『鍋に弾丸を受けながら』で台湾の食べ物について全体的な雰囲気を知ることができたのもよかった。

・電脳・データ化した記憶・意識の改ざんというテーマはあまりにも多くの作品が浮かんでは消えしたのであえて挙げなくてもいいか。

そんなところで。充実した読書の時間だったー。