断片置き場

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拝み屋怪談 始末

 

拝み屋怪談 怪談始末 (角川ホラー文庫)

拝み屋怪談 怪談始末 (角川ホラー文庫)

 

 人々の悩みを祓い、無念を晴らす拝み屋。仕事で解決した不気味な話を怪談として仕立てる、そういうちょっと変わった語り口の怪談本。

一話一話がとても短いので筋を紹介することも難しい(実話怪談本は大抵そう)が、主人公の小さいころから現在に至るまで続くある少女を巡るエピソード「桐島加奈江 壱~五」が特に面白く、紹介したい。

・主人公は少年時代、自室での熱帯魚の飼育を趣味としていた。ある日夢の中で出会った少女加奈江に惹かれていく、学校でのいじめもあり次第に現実が疎ましくなり、彼女と過ごすために寝てばかりいるようになる。二人の共通の関心は熱帯魚で、水槽を眺めて過ごすことも多かった。加奈江からの誘いで熱帯魚のお店でアルバイトすることになるが、そのお店は現実に主人公がいきつけの熱帯魚屋だった。夢の中で二人はますます親密になるが、ある日現実のあの熱帯魚屋に行くことになる。そしてその帰り道に、現実にいるはずのない加奈江と出会ってしまう…

現実と夢の境界は崩壊し、怪物と化した加奈江に彼は何度も脅かされる。これ以外のエピソードではほとんど淡々と語り、大抵の問題は問題なく解決しているようだが、加奈江には何の効果的な対策も見いだせず怯える。そのギャップが読者に危機感を覚えさせる。

夢の中で不可思議な少女と触れ合いながら、熱帯魚の泳ぐ水槽を見るという美しいヴィジョンが、現実とすり合わせられた瞬間に一気に崩れ去ってしまう、そういった趣があり非常に好みだ。

怪談全体の配置が巧みだ。ところどころに拝み屋自身に襲い掛かる怪異の話もあり、緊張感もある。単体では取るに足らないような話(動物が不気味だったとか)があることで緩急も利いている。

どうやら桐島加奈江の話は続巻でより詳細に深く語られるらしい(「拝み屋怪談 来るべき災禍」にて)シリーズものを追うのは久々だが、楽しめそうだ。