断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

恐怖の構造

 

恐怖の構造 (幻冬舎新書)

恐怖の構 造 (幻冬舎新書)

 

 近頃、映像化されたり(『独白する横ユニバーサルメルカトル』)コミカライズされたり(DINNER)と、ますます勢いのある作家平山夢明氏が恐怖の本質に迫ろうとする一冊。

若いころ映画製作を志していた、というところから映画を例にとって語る部分が多い。「エクソシスト」「シャイニング」のホラー映画、「ゴッドファーザー」「タクシードライバー」のようなホラーとは違ったジャンルの映画まで。

作品発表時の社会情勢などを絡めながら分析的な語り口でわかりやすく語られ、サクッと読める。

特に興味深く読んだのが「不安」と「恐怖」の違いについての部分で、対象が明確なものへと抱くのが「恐怖」、漠然としたものへと抱くのが「不安」と区別したうえで、厄介なのは「不安」のほうだという論。漠然としているがゆえにそれを乗り越える具体的な方法がないからだ。

現代は不安渦巻く社会だが、著者はそれをどう乗り越えるか、という解決方法には論を進めない(そういう仕事ではないし)。それが次の傑作ホラーを生み出すのではというかなり歪んだ期待へと筆を進めていくのは面白く感じた。

もう一点興味深かったのは、「エクソシスト」の製作エピソードの紹介部分で、昔のこととはいえそんなえげつないことをやっていいのかと驚いてしまった(映画通には有名なのだろうが)。

かなり私自身のホラーの考え方に合致するところが多く、そのうえであまり鑑賞することのない映画というジャンルの語りから平山流ホラー映画ガイドとしても読めた。

ただ…冒頭の著者の不謹慎な行動が関係者に怪我などの不幸を起こしていたと思われる”川崎大師事件”を笑い話として話すセンスは行き過ぎていると感じるし、それを聞いて笑うというファンの構図についてもあまり愉快には感じられなかった。このあたりは著者の作風を面白くは感じても、心底好きとは言えない理由となのだろう。

作品を自ら生み出しながら、そのジャンルについて明確に言語化できる語り手は結構貴重だ。毒がきつい部分もあるものの、様々な角度から恐怖の本質に迫る書であり、参考になった。