断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

カーテン

厚いカーテンを口元に寄せて声を出す、はしゃいでいたわが子が逃げていく。部屋から音が消える。
予想より低くて陰気な声になった。怪物のようで面白い。ホラー映画のセリフを思い出してしゃべってみる。まるで自分でないようだ。迫力がある。
そういえばこんな声を昔聞いたことがあった気がする。夏の夜に、薄気味の悪い思いをした。驚いて眠れなかった。一週間くらいはそれを引きずった気がする。
声を聞いたのははっきりとしているのだが、どんな言葉をかけられたのかはわからない。
そうか、こうやって誰かが声をかけたのだ。ちょうど今みたいに脅かそうと思って。
いや、そうでもない。なにしろ一人暮らしで相談相手もおらず、布団の中で震えていたのだから。そんな誰かがいたはずもない。
気味の悪さが蘇ってくる。自分の息で暖められたカーテンが生きているみたいだった。
そっと手を離し、部屋を出る。タッセルに留めもしないで。あの子がどこかで泣いているだろうから、慰めてあげないといけない。
閉じかけたドアの向こうから、またおいで、と声がきこえた。