断片置き場

小説とか書評とかを書いていくつもりです

燃えがら

うなされている声で目が覚めました。隣で眠る彼は悲痛な顔で少し涙さえ流していました。

昨日は疲れていたのです。私たち二人ともがよく知っていた女の子の葬儀があったので。

部屋の明かりがついたままでした。二人とも出来事の重みに耐えかねて夢へと転がり落ちてしまったのです。

彼女の死因は交通事故でした。つい先日会ったときのとても元気そうな様子と、棺の中の彼女とがあまりにもかけ離れていて、私たちは途方に暮れていました。

彼はまだうなされています。頭を横に振って、何かを拒絶するような辛い表情。

そっと肩をさすってあげました。少し頭も撫でました。

そうやって悲しい嵐が過ぎるのを、待っていようと思ったのです。しかしうなされ具合はますますひどくなっていきました。体全体が私と逆の方向へ傾いていき、追いすがるような様子で手を動かしているのです。一度起こしてしまおうかと耳元まで顔を近づけて気づきました。

本来なら鼓膜続く、その穴にきらきらとした水が張っているのです。なにかの病気かもしれないとは思いましたが、その水面にどうやら景色が映っていると気づいてしまってからはそれに見入ってしまいました。

見えたのは棺でした。ちょうど昨日見た、彼女が眠っていたあの木棺。すでに蓋が閉められていました。水面の端から棺に向かって手が伸びています。彼の太い腕が、縋りつくように棺をつかんでいました。

これはきっと彼の夢の中身なのでしょう。彼は夢の中で悲しい出来事を反復しているのです。

私は少しおかしな気分になっていました。夢の中でも彼を悲しませている彼女がうらやましくなってきたのです。つまらない嫉妬でした。横たわっていた大きな死に比べて取るに足らない情動です。

ああ、ついに彼の腕が棺の蓋をこじ開けようとしていました。あの葬儀の間も彼は本当はこんな風にふるまって、彼女にしがみ付いていたかったのでしょうか…?

水面はついに彼が棺の蓋を剥がすそのときを映していました。いっぱいに敷き詰められた花々、その中に眠るのは、彼女ではない、そう私だったのです。まぎれもない私がそこに眠っていました。

彼がひどく取り乱しているその様子が、おかしな喜びを生んでいきます。彼女の葬儀での彼の様子を思い出しながら、私はますます満ち足りていくのです。

なんと残酷なことだとわずかな良心が諫めても、私はやめられませんでした、彼の夢を終わらせませんでした。

彼が半狂乱になり、部屋が悲鳴で満たされる中、私は微笑んでいたでしょう。彼の夢ではいよいよ私を炎にくべる準備が整ったようでした。蓋が再びかぶせられ、彼は棺から引き剥がされます。

うねりを上げる、現では考えられないような過剰な炎が身を隠すこともなく待ち受けていました。

苦しむ彼をほうっておいて私は何をしているのでしょう。

一方で喜びながら、それでいて嫌な心地がしてきました。

私は燃えあがっていました、夢の中で、そしてこの寝室でも。いつまでも、彼が泣き疲れるまでずっと、夢の燃えがらを見ていたのでした。